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アジア進出に関する法務のポイント

三宅・山崎法律事務所 弁護士 中山 達樹

第2回シンガポール労働法の特徴

1.概要

前回も述べましたが、シンガポールの労働法の特徴は、(1)解雇が自由なことと、(2)解雇手当の支払義務がないことです。その他に、(3)雇用法の適用範囲が限定されていること(そのため、そもそも雇用法が適用されない労働者がいること)、(4)最低賃金の定めがないこと、(5)労働組合も強くないこと、が挙げられます。

一般的には、アジア進出を考える際に、シンガポール以外の国では、日本と異なったより厳しい労働法制に注意をしなければなりません。しかし、シンガポールでは他のアジア諸国と異なり、上記(1)~(5)のとおり、労働法制が会社側に有利に設計されているので、進出の障害とはなりません。この会社に有利な労働法制は、外資企業を積極的に誘致しようというシンガポールの国策に基づいています。

2.解雇の自由

シンガポールでは、日本と異なり、解雇に理由は不要です。事前に通知すれば、理由なく労働者を解雇できます。このため、労務リスクは低く、外国企業がシンガポールに進出しやすい要因となっています。

3.解雇手当の支払義務

日本以外のアジア諸国では、解雇の場合に法定の解雇手当を支払う義務が課されている国が多いです。しかしシンガポールでは、退職慰労金を支払う契約を労働者と結んでいない限り、解雇した労働者に対して解雇手当を支払う必要はありません。したがって、会社としても容易に解雇することができます。

ただし、整理解雇をした場合には、3年以上勤務する労働者に対して整理解雇手当を支払うことが実務上要求されています。

4.雇用法の適用範囲

(1)管理職・上級職(日本の管理監督者より広い)
月給4,500シンガポールドル(約30万円)以下の場合、賃金支払等に関する規定のみ適用されます。日本の管理監督者同様、残業手当等に関する規定は適用されません。
(2)一般労働者
月給2,000シンガポールドル(約13万円)を超える一般労働者には、労働時間等の条件に関する規定は適用されません。つまり、残業手当の支払義務等はありません。
(3)肉体労働者(ワークマン)
月給4,500シンガポールドル(約30万円)を超える肉体労働者には、労働時間等の条件に関する規定は適用されません。つまり、残業手当の支払義務等がありません。

5.最低賃金の定めなし

シンガポールでは、他のアジア諸国と異なり、最低賃金法はありません。もっとも、他のアジア諸国同様、シンガポールでも転職が頻繁なので、労働者を確保するためには、ある程度の賃金水準を維持する必要があります。

6.労働組合は弱い

シンガポールでは労働組合が活発とはいえず、ストライキもありません。

7.まとめ

以上のとおり、シンガポールの労働法制は会社側に有利ですので、労務リスクという観点からは、日系企業はシンガポールに安心して進出できるといえます。

プロフィール

三宅・山崎法律事務所 弁護士 中山 達樹
[所属・役職]
三宅・山崎法律事務所 弁護士
[略歴]
平成10年 3月 東京大学法学部卒業
平成17年10月 第一東京弁護士会登録
平成19年 4月 三宅・山崎法律事務所入所
平成22年 6月 Drew & Napier LLC(シンガポール法律事務所)勤務
平成22年 7月 シンガポール国立大学法学部大学院(Asian Legal Studies)卒業
平成23年 6月 三宅・山崎法律事務所復帰
[弁護士会・公職等]
第一東京弁護士会
環太平洋法曹協会(Inter-Pacific Bar Association; IPBA(www.ipba.org))
日本プロ野球選手会公認選手代理人
[著書・論文等]
シンガポールの紛争解決-『民事訴訟』(シンガポール日本商工会議所機関紙「月報」2011年2月号掲載)
シンガポールの紛争解決-『商事仲裁』(シンガポール日本商工会議所機関紙「月報」2011年3月号掲載)
『アジア労働法の実務Q&A』商事法務,2011年
[URL]
http://www.mylaw.co.jp/

[バックナンバー]アジア進出に関する法務のポイント

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