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企業のグローバル化をサポートする国際税務の基礎知識

東京共同会計事務所 税理士 水谷 美奈子

第1回中堅・中小企業が直面しやすい国際税務問題(源泉課税、租税条約)

1.はじめに

国内での市場規模の縮小、昨今の円高などが追い風となり、中小企業が成長期の新興国市場などに向けて進出する機運がますます高まっています。必ずしも潤沢な資金や人材があるとは限らない中小企業の経営者の方々にとって、海外進出にあたり事前に情報を十分持たれることは重要と考えます。税金についての情報も場合によっては企業の意思決定に深くかかわってきます。海外進出に当たり企業はどのような税に関する問題に気を付けたらよいのか、今回から4回にわたり検討していきます。

2.海外進出に当たっての進出形態

企業が海外に進出する場合の事業形態として、どのようなものが考えられるでしょうか。 最初の足掛かりとしては、現地の事業者と代理店契約を結んだり、現地の市場調査等のために駐在員事務所を置くことなどが考えられます。具体的な事業進出の意思決定ができたあとは、日本法人の支店を現地に置くのか、もしくは現地子会社を設立するかを検討することになるでしょう。子会社設立の場合は、現地の既存の販路利用や認可取得等を目的として現地既存企業とジョイントベンチャーを設立することも選択肢としてあげられるかもしれません。

税務の問題を考えた場合に、上記の各進出形態でどのような違いが生じてくるでしょうか。表にまとめてみると次ようになります。

駐在員事務所は、典型的には「情報を収集することのみを目的とする一定の場所」としてとらえられるので、そのような活動にとどまっている限りにおいて、恒久的施設(PE: Permanent Establishment)とはみなされず、その結果、原則として現地での法人税の申告は必要ないと考えられます(OECD条約モデル5条4項)。

子会社と支店を比較した場合、法人税申告の煩雑さの点では、子会社形態のほうがシンプルです。なぜならば支店形態の場合は現地の法人税申告に加え、日本法人の申告でも現地支店の費用収益を合算しなければならないからです。なお、現地で納めた外国法人税は日本の法人税の申告上は外国税額控除という制度により、一定の枠内ではありますが二重課税の排除がされます。

他方、子会社形態であれば子会社の利得に日本の法人税が課されることは基本的にありません。かつ後でも述べますが、大雑把にいえば、子会社から配当をしても日本でその配当額の95%は法人税課税を受けないこととなっています。現地法人実効税率は日本のそれよりも低いことが一般的なこともあり、子会社形態での進出を選ばれる企業のほうが多いように思います。

しかし子会社形態をとったとしても、進出先がいわゆるタックスヘイブン国・地域に該当する場合には、特に日本法人での合算課税が必要となるケースも多いですので注意が必要です。このタックスヘイブン税制については次回で解説予定です。

3.現地での源泉所得税

表1で日本法人への利益(資金)の還元方法をあげましたが、子会社形態をとる場合は進出先国で稼いだ利益を日本に還元させる方法として、配当金やロイヤルティーの方法が考えられます。たいていの場合、その送金の際に現地国で源泉所得税が徴収されることになりますが、日本と各国で締結している租税条約等によりその軽減税率が異なるので注意が必要です。

租税条約による軽減税率の抜粋を下記の表2にまとめましたので参考ください。海外子会社との日常的な取引として考えられる利子、配当、使用料(ロイヤルティー)については現地国の源泉所得税を天引き後の金額が日本法人に送金されることになります。

利子やロイヤルティーは日本法人の申告にそのまま取り込まれ、二重課税の排除は外国税額控除に委ねられます。

一方、先ほども少し触れましたが、配当金については平成21年税制改正より、一定の要件を満たす外国子会社から受け取る配当金は日本の法人税の課税所得上、配当等の額の95%を益金算入せず、かつ配当金受取の際に現地で源泉徴収された税額は、外国税額控除も損金算入もしないことになりました。結果としてこれらの配当金については現地の法人税及び源泉所得税で納税が完結することになります。

プロフィール

東京共同会計事務所 税理士 水谷 美奈子
[所属・役職]
東京共同会計事務所 税理士
[略歴]
清新税理士法人(旧石渡・西村・中根共同事務所)を経て現職。
企業再編関連業務(ストラクチャー構築に係る税務アドバイス、税務デュー・デリジェンス等)、国際取引に係る税務アドバイス、連結納税関連業務 等
[著書]
『役員報酬をめぐる法務・会計・税務』2008年10月(共著、清文社)
[URL]
東京共同会計事務所

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