NIKKEI

トップ>企業マネジメント最新トレンド>強みを活かして成長する企業~事例から学ぶ差別化のヒント

強みを活かして成長する企業~事例から学ぶ差別化のヒント

株式会社 オーナーズブレイン 小泉大輔 山本信幸

第3回戦略を成功させるために必要なもの

事例紹介

今回は、大手の価格優位性にも負けず、小規模でもうまくいっているスーパーという業態を取り上げ、差別化について考えてみたいと思います。

スーパーと言えば、大量一括購買やオペレーションの効率化、POSなどのIT投資によるコスト削減など、価格競争力で大手有利というのが一般的な認識ではないでしょうか。しかしながら日本全国には、たとえ価格で大手にかなわなくても、創意工夫でお客様に選ばれている地域密着型のスーパーも少なくありません。おふくろの味を提供するために手づくりの惣菜にこだわるスーパー、少量でも配達することで外出が困難な高齢者に人気のスーパーなど、その取り組みは様々です。これらの事例の中から今回は、品数ではなく品種の豊富さで差別化を図っている、最近注目されているA社に実際に足を運び、差別化への取組みを体験してきました。

まずお店に入って驚いたのは一つの商品の品種の多さです。全国の地域名で陳列が分かれていて、初めて見るものばかりで商品名を見ているだけで楽しい気分になりました。せっかく訪問したので何か買って帰ろうとレトルトカレーを選び始めました。ところが、レアなものがあったりと、種類が多すぎて何を選んだらいいか迷ってしまいます。また、これも特徴の一つですが、他ではあまり見ない珍しい品揃えなだけに値段も安くはないのです。それだけに失敗したくないと考えて、余計に選べなくなってしまいます。

そこで私が参考にしたのは店内に表示されている売れ筋ランキング表示と、店員さんからの商品説明でした。辛さの度合いや子供が食べることへの気配りなど、かなり親切に説明してくれました。

次に特徴的だったのが、通常スーパーには必ずと言っていいほど置いてある生鮮品がなかったことです。A社の別の店舗にも足を運びましたが、そこでも生鮮品はありませんでした。更に2店舗周って気付いたのですが、扱っている商品が各店舗で違うというのも特徴的でした。おそらく地域のニーズに扱う商品を合わせているのだろうと思います。

事例からの学び(抽象化)

A社の差別化要素は何といっても買うのが楽しくなるほどの圧倒的な品揃えの豊富さです。

実はこの豊富な品揃えによる差別化はスーパーの経営にとって大きなリスクとなっています。そのリスクとは、希少品種が売れないことによる在庫リスクです。通常顧客はスーパーに対して「多岐にわたる商品をワンストップで安く購入できる」ことを望みます。これに対して一般的なスーパーは在庫リスクを可能な限り低減できるよう、品数を豊富に取り揃えながらも"売れ筋の品種に絞った品揃え"を行います。一方、品揃えの豊富さで差別化を図った場合"売れ筋の品種に絞る"ことができず、これが一般的なスーパーより在庫リスクを高めることになるのです。今回の事例からの学びのポイントは、A社が差別化のために敢えて冒しているこの在庫リスクをどう低減しているかという点です。

「豊富な品揃え」を扱うことで高まった在庫リスクは、賞味期限の短い生鮮を扱わず、その地域でニーズの高い商品を扱うという「品数の絞込み」と、ランキング表示と店員さんの口頭によるアドバイスで商品認知を促す「商品説明」により低減しています。一方で全ての店舗で取扱商品が異なる「商品の絞込み」と、人によるアドバイスなどの「商品説明」は、仕入原価や運営コストを引き上げることにもなります。このコストは希少品種を高額で販売することにより吸収することになります。つまり、A社の行う3つの取組みは、それぞれの取組みにより発生する経営上のマイナスの側面を互いに補完し合って、全体として差別化を可能にしているのです。

あらゆる戦略にリスクはつきものです。これについてドラッカーは次のように言っています。

「経済活動の本質とはリスクを冒すことである。リスクを皆無にすることは不毛である。最小にすることも疑問である。得るべき成果と比較して冒すべきリスクというものが必ずある。」

~【エッセンシャル版】マネジメント~

つまり、重要なのは、冒したリスクを上回るリターンを得ることではないでしょうか。たった一つのアイデアのみで差別化を期待してしまうこともありますが、それにより考えられるリスクを補完する施策(群)まで踏まえて実践する必要があるというのがこの事例からの学びです。

"とるべきリスク"と"避けるべきリスク"

経営には様々なリスクが伴います。中でも戦略を実行する上で発生するリスクは"とるべきリスク"であり、戦略を成功させるには、この総和を上回るリターンを実現できる施策(群)が必要というのが今回の学びでした。一方で経営リスクには大きく分けてもう一つ、"避けるべきリスク"が存在します。これは主に企業内部における業務遂行過程に存在するリスクで、このリスクを顕在化させる主な要因には以下のものがあります。

例えば社内業務においては、牽制機能を働かせてミスを防止したり、規程を整備して業務の品質を維持することで、内部管理要因、人的要因、システム要因によるリスクを低減することになります。また、昨年の震災後に注目されているBCPプランは外的要因による一部のリスクを低減することになります。これらは企業経営において平時から対応しておくべきものであり、戦略を成功させるための基盤ともいえるものです。差別化を初めとするあらゆる戦略を成功させるためには、"とるべきリスク"と"避けるべきリスク"を見極め、どちらにも対応していく必要があります。

プロフィール

株式会社オーナーズブレイン 代表取締役・公認会計士・税理士 小泉 大輔
[所属・役職]
株式会社オーナーズブレイン 代表取締役・公認会計士・税理士
[略歴]
朝日監査法人(現あずさ監査法人)、新日本監査法人を経て現職。
株式公開支援、M&A、企業価値算定をはじめ、会計・財務のコンサルティングを主たる業とするほか、数多くのセミナー・講演活動を行っている。
[著書・訳書など]
『コーポレート・ガバナンス報告書 分析と実務』2007年4月(共著、中央経済社)
『要点解説 金融商品取引法』2007年10月(共著、中央経済社)
「財務スキル教室」(「クオリティー・マネジメント」‐日科技連)
「金融商品取引法に向けた企業の対応」(「クオリティー・マネジメント」‐日科技連)等
[URL]
http://ownersbrain.com/

株式会社オーナーズブレイン シニアコンサルタント 山本信幸
[所属・役職]
株式会社オーナーズブレイン シニアコンサルタント
[略歴]
事業会社で財務・経理業務及び株式公開業務に従事した後現職。
株式公開支援、企業価値算定などの会計・財務のコンサルティングの他、中小企業の事業計画策定、組織活性化、業務改善コンサルティングを行っている。
[URL]
http://ownersbrain.com/

[バックナンバー]強みを活かして成長する企業~事例から学ぶ差別化のヒント

企業マネジメント最新トレンド 一覧へ

日経産業新聞 ビジネス動画 動画で見る、話題の新製品・先端技術 詳しくはこちら

日本大学 通信教育部

月間アクセスランキング

  1. 企業マネジメント最新トレンド
    グローバルに対応しうる事業戦略とは
  2. 企業マネジメント最新トレンド
    ISO9001及びISO14001の具体的な改正内容とその対応のスケジュール
  3. 企業マネジメント最新トレンド
    ISO9001及びISO14001の2015年改正を契機としたISOの活用方法
  4. 企業マネジメント最新トレンド
    ISO9001及びISO14001の2015年改正における具体的な取組み方法
  5. 企業マネジメント最新トレンド
    企業価値とは何か。経営にどう影響するのか

日経産業新聞ピックアップ

2017年8月21日付
  • NCD、ネット広告枠、サイトで売買、好みのメディア選べる
  • 在庫管理、無人で安く PALが倉庫にロボ
  • バイオマス発電所新設 エフオン、20年メド2カ所
  • ダイセル・エボニック 自動車の軽量部品製造 コスト6割減
  • ペットのトイレ、12時間消臭 室内犬用 ユニ・チャーム

経営喝!力 ビジネスIT活用index