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株式公開(IPO)を目指すベンチャー企業の資金調達における法律問題

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村 健

第1回ベンチャー企業の資金調達と株式公開(IPO)

本連載においては、ベンチャー企業を、ビジネスモデルが未確立なためにビジネスリスクが大きい反面、うまく市場が切り拓けると大きく成長する企業の中で、株式公開(注1)(Initial Public Offering。以下「IPO」といいます。)を目指す企業と定義します。

筆者は、ベンチャー企業を中心とする企業法務を取り扱っていますが、ベンチャー企業における法務は、来るべき株式公開上を見据えた対策が必要となりますので、いわゆる中小企業における法務とは一線を画します。ベンチャー企業がIPOをする目的は、第一には公募による資金調達がありますが、他にも知名度の向上による取引先の拡大や優秀な人材の確保、経営体質の強化等様々です。

ところで、日本における新興市場は、以下のとおりですが、ベンチャー企業はこれらの新興市場へのIPOを目標としています。これらの新興市場の中でもその後の東証一部二部への市場変更を見据えて、現時点では、東証マザーズの人気が高いように思います(注2)

本連載では、IPOを目指すベンチャー企業を前提として、IPO時までの資金調達における法律問題について解説します。

ベンチャー企業では、事業内容によって資金を必要とする度合いが異なるものの一般的には資金が不足する傾向にあります。十分な資金調達ができるか否かによって、その後の事業展開が大きく変化し、IPOにも影響を与えます。

資金調達方法としては、(1)金融機関からの借入(注4)等のデット・ファイナンスと(2)ベンチャーキャピタル(以下「VC」といいます。)、事業会社(注5)及びエンジェル等からの出資を受け入れるエクイティ・ファイナンスの方法があります。デット・ファイナンスは、利息の支払及び元本の返済義務が生じますが、経営者の議決権比率が低下することはありません。一方、エクイティ・ファイナンスは、経営者の議決権比率は低下しますが、出資額の返済義務はありません(注6)。多額の資金を調達するため、VC等からの出資を受け入れすぎた結果、経営者の議決権比率が低下しすぎてしまい、経営権が確保できなくなってしまうこともありますので、注意が必要です。

どのタイミングで、誰から、いくら、どのような方法で資金調達をするのかを決定する必要がありますが、これが一般的に資本政策と呼ばれるものです。

資本政策を立案する主要な目的は、(1)経営者の議決権比率の維持、(2)資金調達、(3)経営者のキャピタルゲインの確保、(4)従業員・役員へのインセンティブ・プランを設置することにあります。資本政策を立案するということは、これらの目的を達成すべく、IPO後の経営者の議決権比率、資金調達方法・必要資金調達額の明確化、確保したいキャピタルゲインの額、従業員・役員へのインセンティブに対する方針等を事前に明確化することです。

資本政策を立案するに際して、エクイティ・ファイナンスは、資金調達の観点からは有効ですが、他方で議決権比率を引き下げることにつながる等、上記目的間に相反する事項もありますので、優先順位を決め、異なった各目的をどのようなレベルで充足させるか検討し、最適なバランスを確保していくことが重要となります。

  • (注1)株式公開とは、会社が広く一般投資家から資金調達をし、その対価として会社が新規に発行した株式や大株主が放出した既発行の株式が、株式市場で投資家の売買の対象として取引されるようになることです。
  • (注2)一時期、東証マザーズの審査が厳しかったために、大証ナスダック・ジャパンや大証ヘラクレス(いずれも現大証JASDAQ)の人気が高かった時期もあります。
  • (注3)東証と大証の統合後は東京証券取引所JASDAQとなる予定です。
  • (注4)金融機関からの借入には、経営者個人の連帯保証が求められますが、IPOする段階では、連帯保証を外さなければなりませんし、実際に金融機関もこれに応じています。IPOする場合には、経営者の個人的信用を基にした連帯保証という制度と相反するからです。
  • (注5)例えば、ベンチャー企業が業務提携している事業会社から出資を受け入れて資本提携することはよくあります。
  • (注6)投資契約や出資契約でIPOをしない場合の買戻特約を設けることがありますし、むしろその方が多いですが、この場合には実質的に返済義務を負うことになります。
  • (注7)ただし、脚注5参照

プロフィール

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー 弁護士 大村健(おおむら たけし)
[所属・役職]
フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー 弁護士
[略歴]
1974年生まれ
1996年司法試験合格
1997年3月中央大学法学部卒業
1999年4月弁護士登録
2007年12月株式会社ネオキャリア社外監査役就任(現任)
2010年5月株式会社パイプドビッツ(証券コード:3831)社外監査役就任(現任)
2010年8月株式会社サクセスネットワークス(現株式会社バタフライ)社外監査役就任(現任)
2011年1月フォーサイト総合法律事務所開設 代表パートナー弁護士就任(現任)
2011年5月株式会社リアルワールド社外監査役就任(現任)
[主な著書]
『【改訂版】新株予約権・種類株式の実務-法務・会計・税務・登記-』
『こんなときどうする会社の法務Q&A』
『親子会社の設立・運営・管理の法務』(以上、第一法規)
『図解入門ビジネス 最新会社法の基本と仕組みがよ~くわかる本』(秀和システム)
『事例検証上場ベンチャー企業の粉飾・不正ファイナンス-上場廃止事例に学ぶ 』
『ケースでわかる株式評価の実務』
『上場ベンチャー企業粉飾・不正会計、失敗事例から学ぶ』
『企業法務戦略』(以上、中央経済社)
『Q&Aベンチャー成功の資金づくり』(日本評論社)
『ベンチャー企業のための使える会社法』(税務経理協会)
[主な論文等]
「インターネット上で発行されるポイントに関する法律~資金決済法と景品表示法を中心として~」(『ビジネス法務』2012年8月号)
「独占禁止法適用の現状と企業における留意点~「ジョンソン・エンド・ジョンソン事件」と「ディー・エヌ・エー事件」を契機にして~ 」(『会社法務A2Z』2011年10月号)
「会社法の今 確立した実務、残された課題-新株予約権・種類株式 」(『ビジネス法務』2011年4月号)
「種類株式の徹底活用策-企業再生」(『税務弘報』2010年2月号)
「第二会社方式による再生計画について」(『会社法務A2Z』2009年10月号)
「第三者割当増資の際の投資契約書の実務上の留意点」(『経理情報』2008年11月20日号)
「ベンチャー企業の資金調達戦略」(『月刊ビジネス法務』2008年1月号)
「新株予約権にはどのような活用法があるか」(『新会社法A2Z』2007年2月号)
「種類株式の法務・税務・評価」(『新会社法A2Z』2006年10月号)
「ドキュメント未公開企業のM&A」(『週刊金融財政事情』2006年6月5日号~6月26日号まで連載)等
[URL]
http://www.foresight-law.gr.jp/

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