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株式公開(IPO)を目指すベンチャー企業の資金調達における法律問題

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村 健

第2回ベンチャー企業の資本政策

前回、資本政策について少し触れましたが、今回は資本政策を立案する上で、明確にすべき事項を列挙してみます。

1.経営者の議決権比率の維持と資金調達

ベンチャー企業の資本政策において、一番重要なのが経営者の議決権比率の維持です。株式会社の基本的事項は株主総会によって決定されますが、資本多数決によって決定されるため、経営者の議決権比率が低下すると経営権が弱まることになってしまいます。経営権の安定化のためには、議決権比率が高いことが望ましいので、資本政策を立案するに際しては、経営者の議決権比率をどの程度にするかを決定しなければなりません。

経営者の議決権比率を考える上で重要な割合は、3分の1以上、過半数、3分の2以上です。

まず、3分の2以上の議決権を維持することにより、経営者を除くすべての株主が反対したとしても特別決議を可決することができ、定款変更、事業譲渡、解散、組織変更、合併等の組織再編行為に関する事項を決定することができます。

また、過半数の議決権を維持することにより、経営者を除くすべての株主が反対したとしても普通決議を可決することができます。

そして、3分の1以上の議決権を維持することにより、特別決議を否決することができます。

議決権を維持することと資金調達を実施することはトレードオフ(注1)の関係にあるため、必要な資金調達額と、経営権の確保のために必要な議決権比率を考慮する必要があります。経営者だけでの議決権比率の維持が困難な場合には、協力的な安定株主の確保を検討する必要もあります。

また、資本政策を策定する上では、株価が上昇曲線を描くような金額に設定しなくてはなりません。それに伴って経営者の議決権比率の維持も同時に考慮する必要があります。

単純な例を挙げて説明しましょう。1株5万円で200株発行している会社があり、経営者が単独で全株を保有している時点で、ベンチャーキャピタル(以下「VC」といいます。)から3000万円調達する場合に、1株5万円の株価であれば600株発行することになり、経営者の議決権比率は25%まで低下してしまうのに対し、1株30万円の株価であれば100株発行すれば足り、経営者の議決権比率3分の2となります。この例で、同じ調達額で経営者の議決権比率を上げるために、経営者の保有している200株を1:5で株式分割して1000株にした後で、1株30万円の株価で100株発行すると、経営者の議決権比率は90%を超えます。仮にVCに1株10万円で300株発行したとしても経営者の議決権比率は76%を超えます。

また、資金需要が旺盛なベンチャー企業からすれば少しでも多くの資金が欲しいが、一度に多額の資金調達をするとそれだけ多くの株式を発行しなければならなくなります。つまり、経営者の議決権比率が下がってしまうという弊害があるのです。資金需要を分散することによって、一度に多額の資金調達をするのではなく、少しずつ増資をする方がかえって投資家の信頼を得ることにつながっていくし、経営者の議決権比率を下げなくてすむことにつながるのです。つまり、業績が上向いていけば、それだけ高い株価をつけてくれる投資家が現れるので、同じ額の資金調達をするのでも少ない株数を発行すればよいのです。

2.経営者のキャピタルゲインの確保

ベンチャー企業の経営者が、IPOを目指す1つの要因として、経営者が自ら保有する株式を売却することにより、キャピタルゲインを得ることが挙げられます。そこで、資本政策を立案するに際しては、どの時期に、どの程度のキャピタルゲインを得たいのかを決定しなければなりません。

経営者は、自らが保有する株式を売却することにより利益を獲得できますが、株式を売却することにより、経営者の議決権比率は低下することになります。比較的株価が高い時期に株式を売却することができれば、売却する株式数は少なくてすむため、議決権比率の低下を防ぐことができます。そこで、他の資本政策の目的も考慮し、どの時期に、どの程度の株式を売却し、どの程度の利益を獲得したいのかを検討する必要があります。

3.従業員・役員へのインセンティブ・プラン

従業員・役員へのインセンティブとして、株式やストック・オプションとしての新株予約権(以下「SO」といいます。)を付与することがあります。株式やSOを付与する方法や、時期によっては、期待した効果が生じないことがあります。そこで、資本政策を立案するに際しては、インセンティブを与える方法、時期、数について決定しなければなりません。

IPOが予定されてない段階で、株式やSOを役員や従業員へ与えたとしても、インセンティブの効果を発揮しない可能性が高いです。SOを従業員へ付与しすぎた場合には、SOの権利行使により、多額の利益を得た結果、かえってモチベーションが低下してしまう場合もあります。また、SOが多すぎると上場後の株価形成に悪影響を与えるケースもあるため、最も効果を発揮する方法、時期、数等検討する必要があります。

  • (注1)一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという二律背反の関係のことです。
  • (注2)100,000,000÷100,000円/株=1,000株
  • (注3)50,000,000÷100,000円/株=500株
  • (注4)50,000,000÷200,000円/株=250株

プロフィール

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー 弁護士 大村健(おおむら たけし)
[所属・役職]
フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー 弁護士
[略歴]
1974年生まれ
1996年司法試験合格
1997年3月中央大学法学部卒業
1999年4月弁護士登録
2007年12月株式会社ネオキャリア社外監査役就任(現任)
2010年5月株式会社パイプドビッツ(証券コード:3831)社外監査役就任(現任)
2010年8月株式会社サクセスネットワークス(現株式会社バタフライ)社外監査役就任(現任)
2011年1月フォーサイト総合法律事務所開設 代表パートナー弁護士就任(現任)
2011年5月株式会社リアルワールド社外監査役就任(現任)
[主な著書]
『【改訂版】新株予約権・種類株式の実務-法務・会計・税務・登記-』
『こんなときどうする会社の法務Q&A』
『親子会社の設立・運営・管理の法務』(以上、第一法規)
『図解入門ビジネス 最新会社法の基本と仕組みがよ~くわかる本』(秀和システム)
『事例検証上場ベンチャー企業の粉飾・不正ファイナンス-上場廃止事例に学ぶ 』
『ケースでわかる株式評価の実務』
『上場ベンチャー企業粉飾・不正会計、失敗事例から学ぶ』
『企業法務戦略』(以上、中央経済社)
『Q&Aベンチャー成功の資金づくり』(日本評論社)
『ベンチャー企業のための使える会社法』(税務経理協会)
[主な論文等]
「インターネット上で発行されるポイントに関する法律~資金決済法と景品表示法を中心として~」(『ビジネス法務』2012年8月号)
「独占禁止法適用の現状と企業における留意点~「ジョンソン・エンド・ジョンソン事件」と「ディー・エヌ・エー事件」を契機にして~ 」(『会社法務A2Z』2011年10月号)
「会社法の今 確立した実務、残された課題-新株予約権・種類株式 」(『ビジネス法務』2011年4月号)
「種類株式の徹底活用策-企業再生」(『税務弘報』2010年2月号)
「第二会社方式による再生計画について」(『会社法務A2Z』2009年10月号)
「第三者割当増資の際の投資契約書の実務上の留意点」(『経理情報』2008年11月20日号)
「ベンチャー企業の資金調達戦略」(『月刊ビジネス法務』2008年1月号)
「新株予約権にはどのような活用法があるか」(『新会社法A2Z』2007年2月号)
「種類株式の法務・税務・評価」(『新会社法A2Z』2006年10月号)
「ドキュメント未公開企業のM&A」(『週刊金融財政事情』2006年6月5日号~6月26日号まで連載)等
[URL]
http://www.foresight-law.gr.jp/

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