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株式公開(IPO)を目指すベンチャー企業の資金調達における法律問題

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村 健

第3回第三者割当増資と投資契約

ベンチャー企業がベンチャーキャピタル(以下「VC」といいます。)等から資金調達し、第三者割当増資を行う際には、原則として株主総会の特別決議が必要です(会社法199条2項、309条2項5号)。ただし、株主総会において発行する株式の上限と払込金額の下限を定めることを条件に、新たに発行する株式の数、払込金額、払込日、増加する資本金及び資本準備金の決定を取締役会に委任することができます(会社法200条1項)。この場合、株主総会で決定された条件は1年間有効です(会社法200条3項)ので、資金調達の機動性を図ることができ、ほとんどのベンチャー企業でこの手法がとられています。

また、ベンチャー企業がVC等から出資を受け入れるとき、投資契約書や出資契約書なる契約書を締結させられることが多いです。本来、会社に出資するには特に契約書を締結することなく、会社法で定めたルールに従って株式発行すれば済む話なのに、これらの契約書を締結する意義は、新株発行・新株予約権発行等の事前承認、資金使途の限定、業務遂行状況のモニタリングといった目的の他に、これまでも何度か登場した経営者に株式の買戻義務を負わせることにあります。買戻義務とは、IPOまたは株式の転売が不可能となった場合に、会社もしくは経営者がVC等から株式を買い戻さなくてはならないという義務のことで、これによってVC等は投下資本を回収するのです。そもそも出資や投資とは、本連載の第1回目でも説明したように、返還義務がないものであり、返還義務がない代わりに、リターンが大きいのが本来の姿です。IPOしたときにはキャピタルゲインを得て、IPOしなかったときは出資したお金を返してもらうというのでは、「いいとこ取り」です。最近では買戻義務を設けていない投資契約書や出資契約書も見かけるようになりましたが、数としてはまだまだ非常に少数です。

ベンチャー企業としては、VC等が買戻義務なしでも出資したいと思わせるような魅力的な企業にするほかないと思われます。

なお、ここで金融商品取引法上の発行開示規制についても少し触れておくことにします。まだIPOしていないベンチャー企業の場合、そのほとんどが非開示会社(注1)と考えられますが、株式の取得勧誘した人数が50名以上の場合には「募集」(注2)に該当し、1億円以上の資金を調達する場合には財務局へ有価証券届出書の提出、1000万円超1億円未満の場合(注3)には有価証券通知書の提出が必要となります。その他、1億円以上の募集の際には、目論見書(注4)を投資者に直接交付することが必要となります。

過去6ヶ月以内に株式を発行している場合には、その勧誘の相手方の人数を通算し、その結果、通算した人数が50名以上となる場合には「募集」となりますので、発行開示規制がかかります。

また、勧誘対象者を50名未満とし、その取得者から多数の者に所有されるおそれが少ない場合を私募(少人数私募)といい、原則として発行開示規制がかかりませんが、発行価額が1億円以上の場合には有価証券通知書を提出しなければなりません。

これらの手続を忘れるとIPO審査に引っかかってしまうので要注意です。

ここで、発行開示規制について、表にまとめてみましたので、ご参照ください。

なお、IPO直前事業年度末の2年前の日の翌日から公開日の前日までの増資や株式譲渡については、IPO時に取得者名や取引株価等の情報を有価証券届出書や目論見書にて開示しなければなりません。

  • (注1)有価証券報告書提出会社以外の会社のことです。
  • (注2)勧誘対象が50名以上であっても、適格機関投資家や特定投資家のみを相手として勧誘する場合で、かつ対象有価証券が適格投資家以外の者に譲渡されるおそれの少ない場合には「募集」として扱われず、50名未満を相手方とする場合であっても、多数の者に所有されるおそれがある場合(例えば上場株券)には「募集」として扱われます。
  • (注3)募集を開始する前1年間以内に行なわれた株式の募集がある場合には、その金額を通算し、1億円以上となるときには有価証券届出書が必要となります。
  • (注4)目論見書は有価証券の発行者の事業その他の事項に関する説明を記載する開示書類であって、投資者に直接交付し、または投資者から交付の請求があった場合に直接交付するものです。目論見書の記載内容は有価証券届出書とほぼ同じになります。

プロフィール

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー 弁護士 大村健(おおむら たけし)
[所属・役職]
フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー 弁護士
[略歴]
1974年生まれ
1996年司法試験合格
1997年3月中央大学法学部卒業
1999年4月弁護士登録
2007年12月株式会社ネオキャリア社外監査役就任(現任)
2010年5月株式会社パイプドビッツ(証券コード:3831)社外監査役就任(現任)
2010年8月株式会社サクセスネットワークス(現株式会社バタフライ)社外監査役就任(現任)
2011年1月フォーサイト総合法律事務所開設 代表パートナー弁護士就任(現任)
2011年5月株式会社リアルワールド社外監査役就任(現任)
[主な著書]
『【改訂版】新株予約権・種類株式の実務-法務・会計・税務・登記-』
『こんなときどうする会社の法務Q&A』
『親子会社の設立・運営・管理の法務』(以上、第一法規)
『図解入門ビジネス 最新会社法の基本と仕組みがよ~くわかる本』(秀和システム)
『事例検証上場ベンチャー企業の粉飾・不正ファイナンス-上場廃止事例に学ぶ 』
『ケースでわかる株式評価の実務』
『上場ベンチャー企業粉飾・不正会計、失敗事例から学ぶ』
『企業法務戦略』(以上、中央経済社)
『Q&Aベンチャー成功の資金づくり』(日本評論社)
『ベンチャー企業のための使える会社法』(税務経理協会)
[主な論文等]
「インターネット上で発行されるポイントに関する法律~資金決済法と景品表示法を中心として~」(『ビジネス法務』2012年8月号)
「独占禁止法適用の現状と企業における留意点~「ジョンソン・エンド・ジョンソン事件」と「ディー・エヌ・エー事件」を契機にして~ 」(『会社法務A2Z』2011年10月号)
「会社法の今 確立した実務、残された課題-新株予約権・種類株式 」(『ビジネス法務』2011年4月号)
「種類株式の徹底活用策-企業再生」(『税務弘報』2010年2月号)
「第二会社方式による再生計画について」(『会社法務A2Z』2009年10月号)
「第三者割当増資の際の投資契約書の実務上の留意点」(『経理情報』2008年11月20日号)
「ベンチャー企業の資金調達戦略」(『月刊ビジネス法務』2008年1月号)
「新株予約権にはどのような活用法があるか」(『新会社法A2Z』2007年2月号)
「種類株式の法務・税務・評価」(『新会社法A2Z』2006年10月号)
「ドキュメント未公開企業のM&A」(『週刊金融財政事情』2006年6月5日号~6月26日号まで連載)等
[URL]
http://www.foresight-law.gr.jp/

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