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株式公開(IPO)を目指すベンチャー企業の資金調達における法律問題

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村 健

第4回ベンチャー企業におけるストック・オプションの活用

ベンチャー企業にとって、IPO準備段階におけるベンチャーキャピタル等に対する株式発行による資金調達は、資金調達の観点からは有効ですが、一方で経営者の議決権比率を引き下げることにつながり、経営が不安定になることにつながります。また、議決権比率維持のためにIPO時に経営者の売出株式数に制限をかけることとなり、経営者がキャピタルゲインを十分に確保できなくなる場合もあります。この場合、通常の株式発行に加えて、新株予約権を活用すれば、資本政策の複数の目的のバランスを確保しながら、資金調達をすることが可能となります。

つまり、あらかじめ新株予約権を経営者に付与しておくことにより、経営者の議決権比率を維持することができるのです。IPO時に公募増資を実施することにより、経営者の議決権が低下した場合においても、あらかじめ経営者に新株予約権を付与しておき、IPO後に権利行使をすることにより、議決権比率の低下を防止することができます。

経営者に新株予約権を付与することは、経営者の議決権比率維持にとって、有用な方法ですが、経営者に新株予約権を付与する場合には、後述のとおり税制非適格ストック・オプション(以下「SO」といいます。)となる可能性があることには留意が必要です。

新株予約権を取締役、従業員等に対して、職務執行または労務の対価として付与した場合にはSOとなります。職務執行または労務の対価として付与されるため、無償または有利な価額で発行されることが多く、無償で付与した場合には、税制適格SOとなることが多いです。税制適格となる要件は以下の表のとおりです。なお、監査役は対象者となっていない点には留意が必要です。

ここで、法律問題とは若干異なりますが、筆者が編集代表を務めた『新株予約権・種類株式の実務-法務・会計・税務・登記-』(第一法規)に、税制適格SOと税制非適格SOの税負担の違いが具体例で解説されていますので、その部分を引用して説明します。

SOの内容は、(1)権利行使価格:50,000円、(2)権利行使時の株価:1,000,000円、(3)売却時の株価:1,100,000円、(4)付与されたSO数:100株分とします。

この例では、税制非適格SOに該当するケースでは、権利行使時に500万円の払込を行うほかに4000万円の所得税を払うことになります。権利行使した直後に売却すればまだいい方ですが、最悪なのは権利行使したものの売却時に株価が大幅に下がっているケースです。例えば、上記の例で権利行使後何らかの理由ですぐには売却できず、売却時に株価が500,000円まで下がった場合には50,000,000円の入金しかありません。当然、譲渡所得は発生しませんが、正味の手取り額はわずか3,520,000円(注6)になってしまいます。

経営者にSOを付与する場合、一般的には議決権の3分の1を超える議決権を保有しているケースが多いため、税制非適格SOに該当することが多いと思われます。大口株主(注7)およびその特別利害関係者(注8)は税制適格のSO対象者から除外されているからです。税制非適格SOに該当すると、上記のように権利行使時に給与所得課税されます。その結果、権利行使したのみでは株式譲渡はしていないため、株式の売却代金は入手できていないにも関わらず、他の所得と合わせて所得に関する累進課税が課されることとなるため、経営者に多額の税負担が発生してしまいます。

この場合、経営者に新株予約権を付与する際に労務の対価としてではなく、有償とすることにより、権利行使時に給与所得課税が発生しないようすることが可能です。労務の対価としてではなく、新株予約権を公正な評価額により有償取得し、権利行使をした場合には、有価証券を取得した場合と同様の課税関係となります。すなわち、新株予約権を取得した場合には、払込金額と付随費用の合計額を取得価額として評価し、権利行使をした場合には、新株予約権の取得価額と権利行使の際に払込をした金額を有価証券の取得として処理すればよく、権利行使時に課税関係は生じません。

税制非適格SOの場合とは異なり、株式譲渡時に株式譲渡益課税のみの課税とすることができるため、経営者に税金負担等を課することなく、新株予約権を付与することができるのです。

以上述べてきたことについて、上記『新株予約権・種類株式の実務-法務・会計・税務・登記-』(第一法規)ではもっと詳細に解説されていますので、併せてご参照ください。なお、同書は、平成24年春に第3版が上梓される予定です。

4回連載で株式公開(IPO)を目指すベンチャー企業の資金調達における法律問題の一部を解説してきましたが、これを読まれたベンチャー企業が1社でも多く、成功されることを願ってやみません。

  • (注1)(1,000,000-50,000)×100株=95,000,000円。
  • (注2)他の給与所得はないものと仮定。また給与所得控除以外の所得控除は考慮しない。
  • (注3)(1,100,000-50,000)×100株=105,000,000円
  • (注4)(1,100,000-1,000,000)×100株=10,000,000円
  • (注5)20%として計算。
  • (注6)売却代金-(権利行使価格+税金)=50,000,000-(41,475,000+5,000,000)=3,525,000円
  • (注7)大口株主とは、付与決議日に上場会社にあっては、発行済株式総数の10分の1以上を有する者、未上場会社にあっては発行済株式総数の3分の1を超える株式を保有している者をいいます。
  • (注8)特別利害関係人とは、大口株主の親族(配偶者、6親等内の血族および3親等以内の姻族)及び大口株主と特殊な関係にある個人をいいます。

プロフィール

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー 弁護士 大村健(おおむら たけし)
[所属・役職]
フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー 弁護士
[略歴]
1974年生まれ
1996年司法試験合格
1997年3月中央大学法学部卒業
1999年4月弁護士登録
2007年12月株式会社ネオキャリア社外監査役就任(現任)
2010年5月株式会社パイプドビッツ(証券コード:3831)社外監査役就任(現任)
2010年8月株式会社サクセスネットワークス(現株式会社バタフライ)社外監査役就任(現任)
2011年1月フォーサイト総合法律事務所開設 代表パートナー弁護士就任(現任)
2011年5月株式会社リアルワールド社外監査役就任(現任)
[主な著書]
『【改訂版】新株予約権・種類株式の実務-法務・会計・税務・登記-』
『こんなときどうする会社の法務Q&A』
『親子会社の設立・運営・管理の法務』(以上、第一法規)
『図解入門ビジネス 最新会社法の基本と仕組みがよ~くわかる本』(秀和システム)
『事例検証上場ベンチャー企業の粉飾・不正ファイナンス-上場廃止事例に学ぶ 』
『ケースでわかる株式評価の実務』
『上場ベンチャー企業粉飾・不正会計、失敗事例から学ぶ』
『企業法務戦略』(以上、中央経済社)
『Q&Aベンチャー成功の資金づくり』(日本評論社)
『ベンチャー企業のための使える会社法』(税務経理協会)
[主な論文等]
「インターネット上で発行されるポイントに関する法律~資金決済法と景品表示法を中心として~」(『ビジネス法務』2012年8月号)
「独占禁止法適用の現状と企業における留意点~「ジョンソン・エンド・ジョンソン事件」と「ディー・エヌ・エー事件」を契機にして~ 」(『会社法務A2Z』2011年10月号)
「会社法の今 確立した実務、残された課題-新株予約権・種類株式 」(『ビジネス法務』2011年4月号)
「種類株式の徹底活用策-企業再生」(『税務弘報』2010年2月号)
「第二会社方式による再生計画について」(『会社法務A2Z』2009年10月号)
「第三者割当増資の際の投資契約書の実務上の留意点」(『経理情報』2008年11月20日号)
「ベンチャー企業の資金調達戦略」(『月刊ビジネス法務』2008年1月号)
「新株予約権にはどのような活用法があるか」(『新会社法A2Z』2007年2月号)
「種類株式の法務・税務・評価」(『新会社法A2Z』2006年10月号)
「ドキュメント未公開企業のM&A」(『週刊金融財政事情』2006年6月5日号~6月26日号まで連載)等
[URL]
http://www.foresight-law.gr.jp/

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