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First step アジア進出の税務

グラントソントン太陽ASG税理士法人 国際税務担当パートナー 宮島 久美子

第4回クロスボーダー組織再編とアジアの統括会社優遇税制

日本企業のアジア統括会社が急激に増加しています。海外における競争に打ち勝つために、今やグループ内の効率的な管理と迅速な意思決定による業務の最適化、グループ全体の総合的なコスト削減政策などが必須となっているためです。

さらに、2010年の外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)の改正や、第3回でご紹介した外国子会社配当益金不算入制度の創設、アジア各国で進められている外資規制緩和措置や地域統括会社に対する優遇措置等の外資誘致政策などがその後押しをしていると考えられます。

そこで第4回では、組織再編により海外にアジア統括会社を設立する場合の留意点について解説をすると共に、アジア諸国の統括会社に対する優遇税制をご紹介致します。

1.地域統括会社設立の目的

地域統括会社の設立目的には、(1)意思決定の迅速化など経営統制の強化、(2)シェアードサービスの提供による、域内グループ全体の効率化・コスト削減、(3)域内グループ全体の税務戦略などがあり、その目的は必ずしも税務上のベネフィットのみではありませんが、再編時の税コストおよび再編後のオペレーションにかかる税コストの削減は企業にとって大きな課題といえます。

なお、日本企業のアジア地域統括会社設立国第1位はシンガポール、第2位はタイであり、いずれも地域統括会社に対する税務上の優遇措置が用意されています(下記5参照)。

2.地域統括会社設立による税務上のメリット

日本親会社の下に直接子会社が複数ある場合には(上図左)、各子会社から日本親会社に対して配当・マネジメントフィー・利子・ロイヤルティなどが支払われ、日本親会社が受け取ったこれらの所得は、日本において法人税等の課税対象となります(*1)

これに対し、法人税等の負担税率が低い国に地域統括会社を設立した場合には(上図右)、以下のような税務メリットが考えられます。

(1)グループ全体の税コスト削減

複数の子会社を統括する地域統括会社を設立した場合、日本親会社に支払われていた配当、マネジメントフィー、利子、ロイヤルティなどは、統括会社に集められます。法人税等の負担税率が低い国に統括会社を設立することにより、統括会社に集められたこれらの所得に対して課される法人税等の額は減少し、グループ全体の税コストを抑えることができます。更に、統括会社において優遇税制を適用することができれば、一層の税コスト削減が可能となります(*2)

(2)日本親会社の税負担軽減

日本親会社の下に地域統括会社を設立した場合、日本親会社には統括会社からの配当という形で資金還元がされます。株式の25%以上を6ヶ月以上保有している子会社から受けた配当は、第3回でご紹介した通り、その総額の95%が益金不算入(法人税の課税対象外)となるため(*3)、日本親会社の税負担は軽減されます。また、2010年度の法人税法改正により、一定の要件を満たす統括会社に対する外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)の適用要件が緩和されたため、合算税制の適用を受けることなく、法人税等の負担税率が低い国にアジア統括会社を設立することが可能となりました(*2)

  • (*1)一定の要件を満たした子会社から受ける配当については、95%が益金不算入となります。
  • (*2)日本のタックスヘイブン税制の適用緩和対象となる『統括会社』の範囲と、アジア諸国の優遇税制の適用対象となる統括会社の範囲とは必ずしも一致するものではありません。したがって、日本で合算課税を受けずに、かつ海外で優遇税制を受けるためには、日本と海外の双方の要件を満たすよう、事前に十分な対策が必要となります。
  • (*3)外国子会社配当益金不算入制度適用のために必要な、一定の要件を満たす場合に限ります。

3.現物出資による地域統括会社の設立

日本の会社法上、日本企業が外国企業との間で合併、会社分割、株式交換等を行うことはできませんが、現物出資をすることは可能です。したがって、外国子会社の株式を現物出資することにより統括会社を設立する場合の留意点について考えていきます。

(1)適格現物出資資産の制限

税務上、現物出資は資産の譲渡として取り扱われます。原則として譲渡資産(現物出資資産)の価額は時価で評価され、時価と簿価の差額は譲渡損益として認識されますが、税務上の「適格現物出資」要件に該当する場合には簿価による譲渡が認められており、譲渡損益を認識せずに資産を譲渡することができます。

地域内の複数外国子会社の株式を現物出資することにより海外に地域統括会社を設立する場合には、内国法人への現物出資とは適格要件が異なるため注意が必要です。内国法人への出資の場合は、現物出資資産の制限はありませんが、外国法人への出資の場合には、国外資産又は負債に限定されています。

現物出資資産に国内資産/負債が含まれている場合には、当該取引全体が非適格現物出資となりますので、適格現物出資による簿価移転を実現するためには、国外資産及び負債を現物出資した後で、国内資産及び負債を別途非適格現物出資または時価譲渡する等の対応が必要となります。

(2)国内資産又は負債と国外資産又は負債

国内資産又は負債とは、国内にある不動産、不動産の上に存する権利、鉱業権および採石権その他国内にある事業所に属する資産又は負債をいいますが、外国法人の発行済み株式等の総数の25%以上の株式を有する場合におけるその外国法人の株式は、国内資産又は負債から除外されています。つまり、保有割合25%以上の外国株式は外国資産として適格資産になりますが、25%未満の外国株式は国内資産に該当するため非適格資産になります。

国内にある事業所に属する資産又は負債に該当するかどうかは、原則として、当該資産又は負債が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記載されているかにより判定します。

4.子会社の本店所在地国における課税

子会社本店所在国に恒久的施設(PE)を有しない外国法人の株式譲渡益を課税対象としていない国は多く、また、マレーシアやシンガポールのようにキャピタルゲインに対する課税を行っていない国もあります。

しかし、例えば日本のように、一定の要件を満たした事業譲渡類似株式等の譲渡については、PEの有無にかかわらず課税の対象としている場合もありますので、各国の国内法及び租税条約の確認は必須です。なお、子会社の本店所在地国において株式譲渡益に対して課された外国税は、日本の法人税額の計算上、外国税額控除の適用対象となります。

5.各国の統括会社優遇税制

(1)シンガポール(EDB(シンガポール経済開発庁)資料より)
[1]地域統括会社(RHQ)
グループ企業間の地域統括拠点として政府の認定を受けた企業は、一定所得(海外からのマネジメントフィー、サービス料、売上、貿易所得、ロイヤルティなど)に対して、3年間、15%の軽減税率が適用されます。その後、一定条件を満たした場合には、更に2年間の延長適用が認められます。
[2]国際統括会社(IHQ)
RHQよりも厳しい用件を満たした場合に、一定所得(海外からのマネジメントフィー、サービス料、売上、貿易所得、ロイヤルティなど)に対して10%以下の軽減税率の適用が可能です。具体的な税率その他のインセンティブについては、EDBとの個別協議により決定されます。
(2)マレーシア(MIDA(マレーシア工業開発庁)資料より)
[1]経営統括本部(OHQ)

OHQとは、マレーシア国内で設立された現地法人で、マレーシア国内外の関連事務所や関連会社に適格サービスを提供するビジネスを、マレーシアにおいて行う企業です。認可されたOHQは、以下の所得につき10年間にわたり法人税が免除されます。

  • 営業所得
    OHQがマレーシア国外にある関連事務所や関連会社に提供したサービスによる所得
  • 利息
    OHQがマレーシア国外にある関連事務所や関連企業に貸し付けた外貨ローンの利息から得た所得
  • ロイヤルティ
    マレーシア国外にある関連事務所や関連企業に代わってOHQがマレーシアで実施した研究開発活動から得たロイヤリティ
[2]国際調達センター(IPC)
IPCとは、マレーシア国内で設立された現地法人で、国内外の関連企業や非関連企業のグループに対して、原材料、部品、完成品の調達や販売などのビジネスをマレーシアで行う企業です。認可されたIPCは、上記[1]同様、営業所得・利息・ロイヤルティにつき10年間にわたり法人税が免除されます。
[3]地域流通センター(RDC)
RDCとは、自社グループにより自社ブランドとして生産された完成品、コンポーネント、スペアパーツを、国内外のディーラー、輸入業者、子会社、その他非関連会社に流通する目的で設立される集荷・統合センターのことです。認可されたRDCは、上記[1]同様、営業所得・利息・ロイヤルティにつき10年間にわたり法人税が免除されます。
(3)タイ(BOI(タイ投資委員会)資料より)
[1]地域統括事務所(ROH)

ROHは関連会社、国内または海外の支店に経営的、技術的、その他のサポートサービスを提供する法人またはパートナーシップです。以下の所得に対しては10%の軽減税率が適用され、関連会社からの配当は免税対象となります。

  • 事業所得
    関連会社や支店へのサービスの提供による所得
  • ロイヤルティ
    タイにおいて行われた研究開発結果に対して関連会社や支店及び非関連会社より受けたロイヤルティ
  • 利子
    関連会社または支店への貸し付けにより受けた利子

プロフィール

グラントソントン太陽ASG税理士法人 国際税務担当パートナー 宮島 久美子
[所属・役職]
グラントソントン太陽ASG税理士法人 国際税務担当パートナー
[略歴]
Big4国際税務部門、外資系大手企業のコントローラーを経験後、グラント・ソントン太陽ASG税理士法人にて、外資系企業や国際展開企業を中心に税務コンプライアンスおよび税務コンサルティングに従事。外国税額控除、タックスヘイブン対策税制、租税条約と国内法、国際源泉課税などをテーマに多数のセミナーおよび執筆を行っている。
[URL]
http://www.foresight-law.gr.jp/

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