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タイ進出に関する法務のポイント

三宅・山崎法律事務所 弁護士・国際化支援アドバイザー 中山 達樹

第4回タイからの撤退や紛争解決

4回シリーズで、タイの法務について解説しております。最終回の今回第4回目は、タイからの撤退や紛争解決につきお伝えします。

1.タイからの撤退

タイに進出しても思うように利益が上がらない場合や、合弁パートナーと意見が食い違うなどで、タイからの撤退を考えなければならない場合があります。大事なのは、いざ撤退するときになって初めて撤退につき考えるのではなく、進出する前から、どのような場合に、どのように撤退するかをあらかじめ考えておくことです。

具体的には、特に合弁企業の場合は、進出時の合弁契約において、撤退をする場合(または撤退を検討する場合)を契約書の中に織り込んでおくことがお奨めです。撤退を検討する場合の具体例としては、何年連続赤字であるとか、資本金の何割が欠損したなどの、財政的な数字を盛り込んでおくことが挙げられます。

また、撤退の方法も、できるだけあらかじめ定めておくことがお奨めです。撤退する場合に、相手方が株式を買い取るのか、第三者が買い取るのか、それとも合弁会社自体を解散するのか、などです。株式買取を選択する場合は、株式価格をどのように算定するかまで、あらかじめ合弁契約で定めておくことも多いです。

2.日タイビジネスにおける紛争解決

(1)訴訟と仲裁の違い

仲裁は、余り知られていませんが、国際的な効力という点では、訴訟より勝っているということができます。

まず、訴訟は、原則として、その国内でしか効力を有しません。日本の判決は日本でしか執行できず、タイに行けば一証拠としての効力しか有しません。逆に、タイの判決も、そのままでは日本では執行できません。
ただし、訴訟には、例外的に、いわゆる先進国同士では、相手方の国の判決を執行できる場合があります。この考え方を、相互主義といいます。日本とこの相互主義の関係がある先進国は、アメリカ・イギリス・シンガポールなどで、タイとの間には相互主義の関係はありません。
したがって、日本の判決はやはりタイでは執行できず、一方、タイの判決は日本では執行されません。

一方、仲裁は、ニューヨーク条約に加盟している世界のほとんどの国(148ヶ国)で、国際的な効力を有します。タイも、ニューヨーク条約に加盟していますから、日本の仲裁は、タイで執行することができます。

このように、外国で執行できるという観点からは、訴訟より仲裁の方が優れているということができます。

(2)仲裁のデメリット

このように、仲裁には国際的執行力があるというメリットがあり、他にも、以下のようなメリットがあります。

  • 1.紛争に詳しい専門的な仲裁人を選択できる(専門性)
  • 2.非公開手続であるため営業機密を保護できる(非公開性)
  • 3.相手国におけるいわばアウェイでの裁判よりは、中立性(判断の公平性)が確保しやすい(中立性)
  • 4.訴訟のような上訴がないため、迅速に紛争が解決できる(迅速性)
  • 5.当事者の希望する言語を選択できる(一方、裁判では、その裁判所がある国の言語しか用いることができない)

ただし、以下のように、仲裁は、裁判に比べて一般的にはコストがかかるというデメリットもあります。
裁判は、国の税金で賄っている(裁判官の給料は税金から出ている)ため、裁判手数料は安いです。
一方、仲裁では、仲裁人の報酬を当事者が負担しなければならず、しかも、仲裁人はたいていベテラン弁護士ですから、高額な時間給がかかります。そのため、1億円以上の紛争でなければ、仲裁を利用するのに適さないと考えられています。

(3)紛争解決方法の選択

実際にタイとの取引で訴訟と仲裁といずれを用いるかは、取引の性質や規模、そして相手方資産がどこにあるか(判決や仲裁判断を執行できるか)などの様々な要素を考慮して決することになります。

プロフィール

三宅・山崎法律事務所 弁護士・国際化支援アドバイザー 中山 達樹
[所属・役職]
三宅・山崎法律事務所 弁護士
[略歴]
平成10年 3月 東京大学法学部卒業
平成19年 4月 三宅・山崎法律事務所入所
平成22年 6月 Drew & Napier LLC(シンガポール法律事務所)勤務
平成22年 7月 シンガポール国立大学法学部大学院(アジア法学専攻)卒業
[弁護士会・公職等]
第一東京弁護士会
環太平洋法曹協会(Inter-Pacific Bar Association; IPBA(www.ipba.org))
日本プロ野球選手会公認選手代理人
中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー
[著書・論文等]
シンガポールの紛争解決-『民事訴訟』(シンガポール日本商工会議所機関紙「月報」2011年2月号掲載)
シンガポールの紛争解決-『商事仲裁』(シンガポール日本商工会議所機関紙「月報」2011年3月号掲載)
『アジア労働法の実務Q&A』商事法務,2011年
『The Dispute Resolution Review (Fifth Edition)』 Law Business Research Ltd,2013年
[URL]
http://www.mylaw.co.jp/

[バックナンバー]タイ進出に関する法務のポイント

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