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適正な労務管理が会社を救う!(未払残業代請求と労務管理)

ノースブルー総合法律事務所
代表弁護士 國安 耕太

第3回法定時間外労働時間をどうやって立証するのか?

1.使用者の指揮命令は、明示のものでなければならないのか

さて、前回、使用者から「義務付けられた」または「余儀なくされた」場合には、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価され、労働時間に該当することになるとお伝えしました。

では、使用者の指揮命令は、明示のものでなければならないのでしょうか。それとも黙示のものでよいのでしょうか。

判例は、所定労働時間午前9時から午後6時までとされていたマンションの住込み管理人に関する事案において、使用者による黙示の指示を認め、不活動時間も含めて、午前7時から午後10時までの間、使用者の指揮命令下に置かれていたとして、当該時間を労基法上の労働時間にあたると判断しました(最高裁平成19年10月19日判決、民集61巻7号2555頁、大林ファシリティーズ事件)。

このように使用者の指揮命令は、明示のものである必要はなく、黙示のもので足りると解されています。

また、近時の裁判例では、労働者が時間外労働を行っていることを使用者が認識しながら、これを止めなかった以上、少なくとも黙示的に業務命令があったものとして、使用者側の時間外労働を命じていないとの主張が排斥されています。

具合的には、(1)労働者が、上司に対し、時間外労働をしたことの記載された整理簿を提出し、上司はその記載内容を確認していたこと、(2)上司が、当該労働者の時間外労働を知っていながらこれを止めることはなかったこと等の事情から、少なくとも黙示の時間外労働命令は存在したと判断しています(大阪地裁平成17年10月6日判決、労判907号5頁、ピーエムコンサルタント事件)。

  • 使用者の指揮命令は、黙示のもので足りる
  • 労働者が時間外労働を行っていることを使用者が認識しながら、これを止めなかった場合、少なくとも黙示的に業務命令があったと見なされる可能性がある

2.使用者が残業禁止命令を出していた場合

上記のとおり、使用者の指揮命令は、黙示のものでもよいとされています。

そのため、残業時間が労働時間ではないと判断されているケースは、使用者が、労働者に対して、残業を禁止していたにもかかわらず、労働者がこれに反して業務を行ったため、労働者の自発的な労働と評価されたような事案に限られると考えておいた方が安全でしょう。
実際、東京高裁平成17年3月30日判決(労判905号72頁、神代学園ミューズ音楽院事件)では、「使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して、労働者が時間外又は深夜にわたり業務を行ったとしても、これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない。」と判示されています。

また、仮に残業禁止命令を出したとしても、実現不可能なほどの業務量があり、処理できない場合の対処法も示されていない場合には、そもそも実現不可能な命令であるとして、残業禁止命令が無効とされる可能性があります。
行政解釈においても「使用者の具体的に指示した仕事が、客観的に見て正規の勤務時間内ではなされ得ないと認められる場合の如く、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を越えて勤務した場合には、時間外労働となる。」(昭25.9.14 基収2983号)とされています。

  • 実現不可能なほどの業務量があり、処理できない場合の対処法も示されていない場合には、そもそも実現不可能な命令であるとして、残業禁止命令が無効とされる可能性がある

3.具体的な法定時間外労働時間の立証責任

本来的には、労働者側に、具体的な法定時間外労働時間を立証する責任があります。
したがって、本来であれば、労働者は、タイムカード等、労働時間が客観的に分かる資料によって、●月●日の午前●時~午後●時まで勤務し、午後●時~午後●時までが法定時間外労働時間である、ということを一つずつ立証していかなければなりません。

しかし、労基法は、賃金全額払いの原則(24条1項)をとり、しかも時間外労働等について厳格な規制を行っており、使用者の側に、労働者の労働時間を管理する義務を課しています(108条、規則54条1項5号6号)。
そのため、労働者が、タイムカード等、労働時間が客観的に分かる資料によって法定時間外労働を証明できなかったとしても、労働者の作成した業務日報、業務報告書や、さらには労働者自身のメモや日記のような資料であっても、時間外労働時間について一応の立証がなされていると評価されることがあります。

4.労務管理の必要性

そして、裏を返せば、これは、使用者が、タイムカード等労働時間が客観的に分かる資料をきちんと作成していなければ、労働者が個人的に作成した資料に基づいて、未払残業代の支払義務を課される可能性がある、ということです。

実際、過去の裁判例でも、「タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専ら被控訴人(注:使用者)の責任によるものであって、これをもって控訴人に不利益に扱うべきではないし、被控訴人自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している労働者が存在することを把握しながら、これを放置していたことがうかがわれることなどからすると、具体的な終業時刻や従事した勤務の内容が明らかではないことをもって、時間外労働の立証が全くされていないとして扱うのは相当ではない」(大阪高裁平成17年12月1日判決、労判933号69頁、ゴムノイナキ事件)とされています。

そもそも、労基法は、使用者に、労働者の労働時間を管理する義務を課しており(108条、規則54条1項5号6号)、厚生労働省も、使用者に対し、適正に労働時間の管理を行うためのシステムの整備、労働時間を適正に把握するための責任体制の明確化とチェック体制の整備等を求めています(「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」(平成15年5月23日付け基発0523004号))。

このように、時間を適切に管理しないこと自体が、使用者にリスクを生じさせるものといえます。

さて、最終回となる次回は、未払残業代請求をされないためにはどうすればいいのか、適正な労務管理のあり方について見ていきたいと思います。

お楽しみに!

プロフィール

ノースブルー総合法律事務所 代表弁護士
國安 耕太
[所属・役職]
ノースブルー総合法律事務所 代表弁護士
[略歴]
2002年早稲田大学法学部卒業
2007年中央大学法科大学院修了
2008年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2010年中央大学法科大学院実務講師(現任)
2011年中央大学法学部兼任講師(現任)
2013年ノースブルー総合法律事務所開設、代表弁護士

第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会委員、総合法律研究所(知的所有権法)委員
[URL]
ノースブルー総合法律事務所

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