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適正な労務管理が会社を救う!(未払残業代請求と労務管理)

ノースブルー総合法律事務所
代表弁護士 國安 耕太

第4回適正な労務管理とは?

1.適正な労務管理

さて、前回は、時間を適切に管理しないこと自体が、使用者にリスクを生じさせるということをお伝えしました。
では、適正な労務管理を行うために、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか。

つぎのリストを見てください。
このうち、いずれかに該当する場合は、未払残業代が発生している可能性があります。

  • (1)基本給に残業代が含まれていることになっている
  • (2)営業職等について、営業手当を残業代としている
  • (3)管理職というだけで、残業代を支払っていない
  • (4)残業の計算は1時間単位とし、1時間未満の残業には残業代を支払わない
(1)基本給に残業代が含まれていることになっている

使用者には、残業代等の割増賃金を支払う義務があり(労基法37条)、かかる義務を当事者の合意によって、免れることはできません。
したがって、労働者が、残業代が支払われないことに同意していたとしても、使用者は、残業代を支払う必要があります。
なお、残業代計算の基礎となるのは、所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間当たりの賃金額」です。たとえば月給制の場合、各種手当も含めた月給を、1か月の所定労働時間で割って、1時間当たりの賃金額を算出します(規則19条1項4号)。
また、家族手当、通勤手当、別居手当・子女教育手当・住宅手当等労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給される一定の手当については、1時間当たりの賃金額には算入されませんが(労基法37条5項、労基法施行規則21条)、その他の手当はすべて算入されます。

(2)営業職等について、営業手当を残業代としている

使用者が、営業手当等残業代以外の名目で支給している手当について、当該手当が残業代に対応するものであるという事実を立証できた場合に限り、残業代支払義務を負いません。
すなわち、就業規則等で、営業手当等が残業代に相当するものであり、それが何時間分の残業に相当するのかが明確にされており、かつ、それが従業員に理解周知されている場合に限り、使用者は、残業代支払義務を免れることができます。
また、現実の法定時間外労働時間に基づいて算出される残業代の額が営業手当等の額を超えた場合、使用者は、固定残業手当との差額を支払う義務を負います(大阪高裁平成12年6月30日判決、労判792号103頁、日本コンベンションサービス事件等)。
なお、固定額しか支払わないとの規定や合意は、労基法37条に反し無効です。

(3)管理職というだけで、残業代を支払っていない

管理職、たとえば、課長職にあるという理由で、残業代を支払っていないことがあります。
しかし、管理職に対し、残業代の支払いが不要となるのは、当該管理職が「管理監督者」(労基法41条2号)に該当する場合に限られます。
そして、「管理監督者」として認められるためには、1.労務管理上使用者と一体の地位にあること(重要な職務内容、責任と権限を有していること)、2.出退勤の自由ないし裁量性があること、3.地位にふさわしい待遇が与えられていることという非常に厳しい要件を満たさなければなりません。
実際、裁判例上、管理監督者性が認められるケースは、多くありません。

(4)残業の計算は1時間単位とし、1時間未満の残業には残業代を支払わない

労基法24条は、賃金は、原則として、その全額を労働者に支払わなければならないと定めており、たとえ1分であっても、残業した場合は、法定時間外労働時間として計算しなければなりません。
したがって、残業の計算は1時間単位とし、1時間未満の残業には残業代を支払わないというのは、明らかな違法行為です。
ただし、1か月の残業時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること等は、例外的に許されると考えられています(昭和63年3月14日付け基発150号)。

2.遅延損害金、付加金そして取締役等の個人責任

以上の点を踏まえ、ぜひ適正な労務管理を行うようにしてください。
それこそが、会社を守る一番の方策なのです。

実際、ひとたび未払残業代請求がなされてしまうと、多額の支払いが命じられることも少なくありません。

未払残業代について労働者は、未払いとなったときから年6%の遅延損害金(商法514条)を請求することができ、退職後は年14.6%もの遅延損害金(賃金の支払の確保等に関する法律6条)を請求することがでます。
また、労基法114条は、裁判所は、残業代を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができると規定しています。
そのため、未払残業代の額が100万円程度であったとしても、使用者は、200万円を超える支払義務を負う可能性があります。

さらに、近時は、使用者である会社だけではなく、会社の取締役等に対し、損害賠償義務を認める裁判例もでてきています。すなわち、大阪地裁平成21年1月15日判決(労判979号16頁、昭和観光事件)では、「株式会社の取締役および監査役は、会社に対する善管注意義務ないし忠実義務として、会社に労働基準法37条を遵守させ、被用者に対して割増賃金を支払わせる義務を負っている」として、会社の取締役等個人の賠償責任を認めています。

3.さいごに

労使関係や会社の規模等によっては、他の労働者からも同様に未払残業代請求がなされ、これが原因で会社が倒産することも十分予想されます。
また、上記のとおり、使用者である会社だけにとどまらず取締役等の個人も賠償責任を負うおそれがあります。
使用者にとって、事前に専門家によるチェックを受け、適正な労務管理を行うことは喫緊の課題ですが、使用者が会社である場合は、取締役個人にとっても、適正な労務管理を行うことが直接的かつ重要な意味を持つ時代となったといえます。

プロフィール

ノースブルー総合法律事務所 代表弁護士
國安 耕太
[所属・役職]
ノースブルー総合法律事務所 代表弁護士
[略歴]
2002年早稲田大学法学部卒業
2007年中央大学法科大学院修了
2008年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2010年中央大学法科大学院実務講師(現任)
2011年中央大学法学部兼任講師(現任)
2013年ノースブルー総合法律事務所開設、代表弁護士

第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会委員、総合法律研究所(知的所有権法)委員
[URL]
ノースブルー総合法律事務所

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