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今、注目が集まる、個人情報保護法改正の動き

弁護士(小笠原六川国際総合法律事務所)
東海大学法科大学院教授
六川 浩明

第3回海外でのプライバシー保護法制の動向

海外での最近のプライバシー保護に関する法制度に関する主な展開として、OECDは、1980年に採択したOECDプライバシーガイドラインについての修正案を平成25年7月に採択し同年9月に公表しました(注1)。データ管理者として、プライバシーリスク評価に基づく適切な保護措置を実施すること等を含むプライバシーマネジメントプログラムの構築等について責任を有すること(第15条)等が新たに加わっています。
EUは、1995年EUデータ保護指令をEUデータ規則(注2)として制定しようとしており、平成25年10月に欧州議会内のLIBE(Civil Liberties, Justice and Home Affairs委員会)において採択され、今後、欧州議会及び欧州連合理事会での合意を目指しています。当該規則案には、仮名データ(第4条2a項)、消去する権利(第17条)、データ保護に係るバイデザイン及びバイデフォルト(第23条)、EU法によって承認されない移転又は開示(第43条a項)等が加わっています。

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一方、米国政府は、これまでの複数の個別のプライバシー保護に関する連邦法では保護の対象とされてこなかったネット空間での消費者のプライバシー保護について、平成24年2月に消費者データプライバシー保護法案の骨子(Consumer Data Privacy in a Networked World)を連邦議会に提示したが、未だに当該法案の条文案が出来上がっていないせいか、連邦議会が当該法案を審議するに至っていません(注3)
もっとも、米国の各州政府及び議会は、ネット空間でのプライバシー保護に多大な関心を有しているせいか、少なからずの州法において2012年及び2013年に、重要な州法改正案が審議されており、州法改正や新州法が制定されるに至っていることがあります(注4)。例えば、コネチカット州法及びデラウエア州法では管理職が従業員の電子メールの送受信内容をモニタリングする際は当該従業員に対する事前の通知を必要とするようになった。多くの州法改正案では、現在の従業員に対し、又は新規従業員との雇用契約時に、ソーシャルネットワークのアカウントに使用しているユーザーネームやパスワードを提出させることを禁止している。17州の州法では、公的機関がウエブサイトを構築する際にプライバシーポリシーを定めることが義務付けられることとなった。カリフォルニア州法では青少年が購入することを禁止されている物やサービスについては、青少年に対してネットを通じて広告やマーケティング活動をすることを禁止する。モンタナ州法では、全米で初めて、警察が被疑者の居所を追跡するために当該被疑者の携帯電話記録を利用するには捜索令状を取得することが要求されるようになった。
EUによるルール制定は包括的であり世界の関心を集めているが、執行力が弱いと評価されており、一方、米国のプライバシー保護規制は個別の立法によっており、EUのような包括的なものでないが、FTCによる執行力が強いと認識されている。米国のプライバシー保護規制の立案に関わる識者は、個人デ―タ規制の取得と利用のうち、今後は、いかに不適切な利用を防ぐべきであるかに重点を置くべきであると述べています(注5)

クラウドサービスを提供している事業者が外国法人である場合、サーバが海外に設置されることが少なくありません。その場合、当該サーバが米国愛国者法(2002年)に基づく捜査の対象となった場合には停止を余儀なくされる可能性があり(注6)、また、EUデータ保護指令25条に定める十分な保護レベルの第三国への移転条項(注7)にも留意しなければならず、さらに、外為法23条3項に基づき特定技術を内容とする情報の送受信をする場合には経済産業大臣の許可を受ける義務があります(注8)

海外の先進諸国は、日本のプライバシー保護の実情や、プライバシー保護制度をどのように見ているのでしょうか。
下記の「注7」の参照文献をみると、EUは、日本の個人情報保護態勢は十分ではないと見ているようです。筆者が平成23年3月にプライバシーを専門とする豪州の大学教授にインタビューをしたとき、その大学教授は同様の意見でした。筆者は必ずしもそのようには思えないのですが、海外から日本をみると、日本の個人情報保護監督機関は各行政官庁に分属しており、プライバシーコミッショナーというような、各行政官庁を横断的に統括する機関が存在していないことが、日本の個人情報保護態勢が弱いという印象を与えているようです。消費者庁から、先進諸国の個人情報保護制度の監督機関に関する検討委員会報告書が発行されています(注9)

  • (注1)OECDの平成25年改正ガイドラインの仮訳はJIPDEC(日本情報経済社会推進協会)のHPに掲載されていますのでご覧ください。
  • (注2)加盟国は指令(directive)を国内法化する義務を負っていますが、一方、規則(regulation)が発効すると自動的に国内法となり批准のような国内措置を必要としません。中西優美子『EU法』115頁(新世社、2012年)。
  • (注3)The New York Times2013年3月30日Technology面、The New York Times2013年10月30日Technology面。
  • (注4)The New York Times2013年10月30日Technology面。インターネットプライバシーを保護するための各州法の動向については、National Conference of State LegislaturesのHP(http://www.ncsl.org/aboutus.aspx)のなかのState Laws Related to Internet Privacyの画面をご参照ください。
  • (注5)日本経済新聞平成26年1月6日朝刊19面
  • (注6)岡本篤尚『9・11の衝撃とアメリカの対テロ戦争法制』107頁以下(法律文化社、2009年)
  • (注7)堀部政男「プライバシー・個人情報保護の国際的整合性」52―59頁(堀部政男編著『プライバシー・個人情報保護の新課題』(商事法務、平成22年4月)所収)
  • (注8)経済産業省「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会 報告書」32頁(平成22年8月16日)
  • (注9)消費者庁の「個人情報の保護」というHPに、諸外国等における個人情報保護制度の監督機関に関する検討委員会報告書が掲載されている。筆者は、そのうち、平成22年度の報告書の執筆に参加した。
    http://www.caa.go.jp/seikatsu/kojin/index_en3.html

プロフィール

弁護士(小笠原六川国際総合法律事務所)
東海大学法科大学院教授(企業法務2,商法演習1,破産法等)
六川 浩明
[所属・役職]
弁護士(小笠原六川国際総合法律事務所)
東海大学法科大学院教授(企業法務2,商法演習1,破産法等)
[略歴]
一橋大学法学部卒。上場会社4社の社外監査役・社外取締役。
首都大学東京・産業技術大学院大学非常勤講師,早稲田大学文化構想学部非常勤講師を兼任。
[最近の共著書]
『裁判例にみる 特別受益・寄与分の実務』(共著、ぎょうせい、2014年2月)
『財務報告実務検定 公式テキスト 2014年版』(共著、TAC出版、2013年6月)
『IPO実務検定 公式テキスト 第4版』(共著、中央経済社、2013年4月)
『ディスクロージャーの業務がわかる』(共著、税務経理協会、2013年1月)
『金融商品取引法 課徴金事例の分析 インサイダー取引編』(共著、商事法務、2012年1月)
『金融商品取引法 課徴金事例の分析 虚偽記載編』(共著、商事法務、2012年1月)
『諸外国等における個人情報保護制度の監督機関に関する検討委員会・報告書』(共著、消費者庁企画課個人情報保護推進室、2011年7月)
[URL]
小笠原六川国際総合法律事務所

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