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企業体力向上のための知的財産活用の視点

今知的財産事務所 弁理士 今 智司

第2回身の回りに実はたくさんある知的財産

1. 知的財産1の例

商店の入口に濡れた傘をビニール袋に入れる装置を見たことがあるでしょう。この装置は「傘の袋収納装置」として特許権が成立していました(特許2562806。但し、現在は存続期間満了により、権利消滅)。
また、ヘッドが潰れたネジや錆びたネジなど、普通のドライバーでは対処できないネジをつかんで回転させることができるプライヤーが販売されています。このプライヤーにも特許権が成立しています(特許3486776、特許4471315)。
このように特許権は何もiPS細胞等の最先端技術のみに成立するものではなく、身の回りのものでも成立する場合があります。

また、東京都大田区の特殊塗料を製造販売するある企業は、BtoBをメーンにビジネスを展開してきました。この企業は剥がせる特殊塗料の技術を有しているのですが、デザイナーと協業し、消費者向けの「剥がせる」塗料を売り出しました。これは、ホワイトボード等に絵や文字を書くと、その形のまま剥がすことができ、かつ、剥がした後、再びホワイトボードに貼り付けることができるものです。この商品はかなりのヒットを納めています2

もちろん、これら以外にも極めて多くの知的財産が存在していますが、上の例は、知的財産を見いだすためのポイントを示唆しているので取り上げました。それでは、そのポイントとはなんでしょうか?

2. 知的財産を見出すポイント

「傘の袋収納装置」では、発明者が、濡れた傘を傘袋に入れるのに苦労していた老婦人を目にしたことをヒントに創出されました 3。また、「プライヤー」の例では、他のプライヤーの愛用者カードに記載されていたユーザーのコメントをヒントに開発されました4
一方、「剥がせる」塗料については、デザイナーとの協業により、これまでBtoBで考えてきたコンセプトとは異なるコンセプトを考え、自社技術を生かした新商品として開発しています。

ここから言えることは、

  • (1)顧客が抱えているボトルネック(課題や問題、欲求)に着目する
  • (2)これまでにないコンセプトを創造し、チャレンジする

のいずれかがポイントであることです。

もちろん、

  • (3)研究開発の結果得られた技術を市場に展開する

という道もあります(例えば、基礎研究を基にした技術等)。
しかし、(3)の道であっても、企業が市場で成功する確率をアップさせるには(1)や(2)のポイントを考慮すべきでしょう。そして、「知的財産が身の回りにない」という方々は、ぜひ(1)のポイントに着目してください。
(1)では、人々の行動や業務の流れをよく観察し、人々がどのようなことに困っているのか? 何が要求されるのか? を考え、それを解決することで知的財産が生み出されています。当たり前かもしれません。しかし、当たり前のことを当たり前に実行することが重要です。
これは何も顧客の問題に限りません。例えば、自社が有する製造工程で不具合が発生したとします。その不具合の原因を究明し、その原因を解消する方策を考えれば、その時点で立派な知的財産が生み出されます。場合によっては、新たな製造工程や製造装置の開発のヒントにもなります。

3. 自社の武器を知的財産の創出に生かすには?

ボトルネックの解消に「強みを生かせ」とよく言われます。ついつい「強み」を最優先に考えがちです。本当にそうでしょうか?
例えば、高機能・多機能な携帯電話に関する技術を「強み」と考えていたとします。しかし、高齢者にとっては使いにくいですし、高機能・多機能であるがゆえにバッテリーの持ちが悪く、災害時には使えなかったりします。

では、どうすればよいのでしょうか?

まずは「顧客」を明確に定め、「顧客」のボトルネックを見つけ出すことが最優先です5。次に、ボトルネックを解決し得る武器が自社にあるかを考えます。武器が自社にあればその武器を使えばよいのですが、もしない場合はその点が自社の「弱み」になります。この「弱み」を潰すために、自社の武器の改良や新たな技術開発、外部からの技術導入等を考えます。
そして、新たな技術開発等により顧客のボトルネックを解決する手段を作り出した場合、そこに知的財産が創出されます。この知的財産を他社に対する「脅威」に育て上げるように考えることが知財戦略につながります。

自社技術を「絶対的な強み」としてとらえてしまいがちですが、「顧客」のボトルネックを把握することから始めることで、開発結果があさっての方向に行くことを防止できます。

いかがでしょうか。顧客のボトルネックに着目することで、知的財産の「種」を多く把握できます。日頃、顧客に接する機会が多い部署に上記のような意識を持ってもらうことで、通常業務中に知的財産の「種」が集まり、知的財産を創出する機会を増加できます。

それでは、創出した知的財産をどのように活用していけばよいのでしょうか?
次回はその点をお話ししたいと思います。

参考資料

1知的財産には特許権や商標権等の法定の権利や、特許権が成立していない発明、そして営業秘密やノウハウ等が存在します。本コラムでは、特にこれらを切り分けずに「知的財産」という用語を用いています。

2「マスキングカラー」ホームページ
「マスキングカラー」について商標登録されています(登録5575562、登録5595885)

3日本弁理士会 ヒット商品を支えた知的財産権

4日本弁理士会 「ヒット商品はこうして生まれた! 平成26年度改訂版」

5顧客のニーズを見つけ出すこと、ときには顧客のニーズをこちらから掘り起こすことや想定することが必要です。

プロフィール

今知的財産事務所 弁理士 今 智司
[所属・役職]
今知的財産事務所 代表弁理士
[略歴]
1997年 早稲田大学 理工学部 応用化学科卒業
1999年 早稲田大学大学院 理工学研究科 応用化学専攻(無機化学)修了
1999-2004年 企業にて発光ダイオードの研究開発に従事
2004-2010年 国内特許事務所 勤務
2011年 今知的財産事務所 設立
2012年 東京理科大学大学院 イノベーション研究科 技術経営専攻修了

主に中小・ベンチャー企業、中堅企業の外部知財部として活動中。特許、実用新案、意匠、商標の権利化手続・係争の他、著作権に関する相談、コンセプト創造に基づくアイデア創出支援やコンサルティングも行っている。
[主な講師歴]
2011年度
日本弁理士会中国支部『弁理士による「知財経営コンサルティング」』研修講師
2012-2014年度
公立大学法人首都大学東京 KADEN Project 知的財産講義 講師
2012-2014年度
東京都立産業技術高等専門学校 非常勤講師(知的財産法)
2014年度
UNITT Annual Conference 2014 日本弁理士会協賛セッション(1)
基礎講座 知的財産 スピーカー
2014年度
財務省税関研修所「平成26年度知的財産委託研修(基礎コース)」東京会場講師
[URL]
今知的財産事務所

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