NIKKEI

トップ>企業マネジメント最新トレンド>企業体力向上のための知的財産活用の視点

企業体力向上のための知的財産活用の視点

今知的財産事務所 弁理士 今 智司

第4回社内に対する知的財産の様々な効能~「権利行使」だけではない!知的財産の得する効果~

知的財産というと、どうしても他社への権利行使がクローズアップされがちですが、社『内』への影響もとても重要です

1. 知的財産の「見える化」の重要性

発明やノウハウ等の知的財産や、特許権等の知的財産権は無体財産であり、具体的に目に見えるものではありません。意図的に文章化したり図面化したりという「見える化」をしなければ、人間が知覚できるものではないのです。
「アッ!いいこと思いついた!」とアイデアを思い付いたとしても、それを言葉なりイメージ等にしないと、他の人にそのアイデアを的確に伝えることはできません。

実際は知的財産が社内にたくさんあるにも関わらず、「見える化」をしていないばかりに、知的財産がどんどん社内に埋もれていき、従業員の退職と共に消えていく例を多く見受けます。単に消えるだけならまだよいのですが、特許権等の権利を取得せず、営業秘密として管理もしていないと、退職者が競合に再就職した場合は自社にとって大きな危機になります。

したがって、特許権等の権利を取得するか否かに関わらず、自社内の知的財産の見える化、そしてその管理は、リスク管理の面からも重要です。

2. 「見える化」が社内に与える影響

社内にある知的財産を「見える化」するとどのような影響があるのでしょうか?

(1) 自社の得意技を明確に認識できる

まず、自社技術やノウハウの見える化により、自社の得意技を明確に認識できます。顧客のボトルネックを解消する際にも、自社の武器を明確に認識していなければ、本当に解消できるのかどうか、自社の武器を改良する必要があるのかどうか判断できません(もちろん、権利化する場合、その前提で見える化が必要です)。
また、自社の得意技を明確に認識することで、社外にアピールすることができるのみならず、自社社員にも自分たちの得意技をはっきりと意識させることができます。製造業の場合、技術系社員以外の社員に自社の武器を認識してもらうには、うまく自社の武器を「見える化」する必要があります。

(2) ノウハウの属人化を低減できる

通常、ノウハウは簡単には他人に伝えることはできません。しかし、ノウハウをできる限り文章化等により「見える化」することで、ノウハウを有する従業員から他の従業員にノウハウを伝授させやすくできます。
もちろん、文章等のみで100%完璧にノウハウを伝えることは不可能ですが、「見える化」することによってノウハウ取得の意識が高まると共に、ある程度は営業秘密としてノウハウを守ることにもつながります。

(3) 知的財産の使いまわしができる

知的財産は有体物ではないので、同時多重利用が可能です。すなわち、ある事業においてある知的財産を使っていたとしても、他の事業において同一の知的財産を使うことができます。したがって、自社の知的財産を「見える化」しておけば、「見える化」した社員以外の社員が、その知的財産を利用して新たな知的財産を創出することも期待できます。

(4) 自社の立ち位置を客観的に把握できる

特許出願等の権利化手続きが必要ですが、権利化手続きにおいて、自社の知的財産の世の中における立ち位置を客観的に把握できます。
すなわち、特許権等を取得するためには特許庁に対して手続きする必要があります。例えば、特許の場合、特許出願しただけでは特許権は取得できず、特許庁に出願審査請求をし、特許にしていいかどうかを審査してもらう必要があります。
その過程で、特許庁から、これだと特許はあげられないよという「拒絶理由」が多くの場合、通知されます。通知には、大抵、特許出願した技術と同一の技術や似た技術が記載されている引用文献(自社の特許出願以前に公開された技術文献)が記載されています。
この引用文献を参照することで、自社技術の世の中における立ち位置を具体的に把握できます。つまり、自社技術が他社技術と比べて進んでいるのかいないのか、他社技術のレベルはどうなのか等を把握して、今後の開発に活かすことができます。

(5) 社員の意識の活性化ができる

社内における仕組みづくりが前提ですが、社員の創意工夫意識を活性化できます。例えば、アイデア創出シートを作り、アイデア創出にインセンティブを与えることで、創意工夫に対する意識が高まります。もしかしたら、アイデアの多くは箸にも棒にもかからないかもしれませんが、その中からビジネスに役立つアイデアが実際に出るかもしれません。そのためには数多くのアイデアを社員に出してもらうことが有効な場合があります。

3. 「見える化」による学習活動による効果

知的財産を「見える化」することは、事業における学習活動に他なりません。

images_04.jpg

例えば、上図のように、コア技術を「A製品」という新製品の開発に適用するとします。この場合、コア技術をA製品の開発に投入すると共に、コア技術だけでは解決できない課題については積極的に外部(例えば、大学の研究機関や行政の支援機関等)から知識を獲得したり、自ら解決することで社内に新たな知識を蓄積します。それによりA製品の開発に成功するだけでなく、これまで社内には存在しなかった新たな知識が知的財産として集積します。
このような技術・知識の獲得及び知的財産の集積活動を繰り返すことで、社内に知的財産が徐々に蓄積していき、コア技術が深化すると共に進化します。これが、新製品を次々に開発する原動力の1つになります。

さて、ビジネスに役立ってこその知的財産である、という想いでお話してきましたがいかがでしたでしょうか。4回という短いコラムでは語りつくせない面が多々ありますが、ビジネスで少しでも参考になるところがあれば幸いです。ありがとうございました。

プロフィール

今知的財産事務所 弁理士 今 智司
[所属・役職]
今知的財産事務所 代表弁理士
[略歴]
1997年 早稲田大学 理工学部 応用化学科卒業
1999年 早稲田大学大学院 理工学研究科 応用化学専攻(無機化学)修了
1999-2004年 企業にて発光ダイオードの研究開発に従事
2004-2010年 国内特許事務所 勤務
2011年 今知的財産事務所 設立
2012年 東京理科大学大学院 イノベーション研究科 技術経営専攻修了

主に中小・ベンチャー企業、中堅企業の外部知財部として活動中。特許、実用新案、意匠、商標の権利化手続・係争の他、著作権に関する相談、コンセプト創造に基づくアイデア創出支援やコンサルティングも行っている。
[主な講師歴]
2011年度
日本弁理士会中国支部『弁理士による「知財経営コンサルティング」』研修講師
2012-2014年度
公立大学法人首都大学東京 KADEN Project 知的財産講義 講師
2012-2014年度
東京都立産業技術高等専門学校 非常勤講師(知的財産法)
2014年度
UNITT Annual Conference 2014 日本弁理士会協賛セッション(1)
基礎講座 知的財産 スピーカー
2014年度
財務省税関研修所「平成26年度知的財産委託研修(基礎コース)」東京会場講師
[URL]
今知的財産事務所

[バックナンバー]企業体力向上のための知的財産活用の視点

企業マネジメント最新トレンド 一覧へ

日経産業新聞 ビジネス動画 動画で見る、話題の新製品・先端技術 詳しくはこちら

日本大学 通信教育部

月間アクセスランキング

  1. 企業マネジメント最新トレンド
    グローバルに対応しうる事業戦略とは
  2. 企業マネジメント最新トレンド
    ISO9001及びISO14001の具体的な改正内容とその対応のスケジュール
  3. 企業マネジメント最新トレンド
    ISO9001及びISO14001の2015年改正を契機としたISOの活用方法
  4. 企業マネジメント最新トレンド
    ISO9001及びISO14001の2015年改正における具体的な取組み方法
  5. 企業マネジメント最新トレンド
    企業価値とは何か。経営にどう影響するのか

日経産業新聞ピックアップ

2017年8月21日付
  • NCD、ネット広告枠、サイトで売買、好みのメディア選べる
  • 在庫管理、無人で安く PALが倉庫にロボ
  • バイオマス発電所新設 エフオン、20年メド2カ所
  • ダイセル・エボニック 自動車の軽量部品製造 コスト6割減
  • ペットのトイレ、12時間消臭 室内犬用 ユニ・チャーム

経営喝!力 ビジネスIT活用index