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「働きかた」とICTが武器となる新・在宅医療ビジネス

インキュベクス株式会社 代表取締役 上村隆幸

第2回在宅医療の「働きかた」は自動で最適化する時代

従業員満足度を上げれば、顧客満足度が上がる

前回は「訪問看護ステーション」の「稼働率」を高めて業績を伸ばす方法として、人力でのシフト設定を改めて「スケジューリングエンジン」によるシフトの自動設定が効果的であることをご紹介しました。

これは他のビジネスのスケジュール決めでも応用できるのですが、「稼働率」を高めるだけでなく、じつは「営業」や「採用」の強化にも効果があるのです。

今回は「営業」「採用」も含めた従業員の「働きかた」におよぼす「スケジューリングエンジン」の効果についてお伝えしていきます。

当社が「スケジューリングエンジン」にたどり着いたのは、じつは当社自身の経営課題を解決するためでした。

前回もお伝えした通り、当社は産業技術大学院大学の戸沢義夫教授が行う研究の題材となっています。

戸沢教授が最初に確認したのが、当社の事業を成長させるために克服しなければならない課題でした。そしてさらなる成長を目指すためには「支援サービスの継続率向上」が必須であると見抜いたのです。

パートナーを「卒業」させず、契約の継続率を高めたい

当社の支援サービスが継続して使われるためには、当社の支援によって支援先の「訪問看護ステーション」が成功・繁栄する必要があります。そのために必要なことが、それぞれのステーションの利用者の顧客満足度を高めることでした。

「訪問看護ステーション」はサービス業の1つであり、サービス業ではサービスの質を高めることで顧客満足度を向上させます。

そして訪問看護のサービス提供の「核」は看護師であるため、まずは働く看護師の満足度を向上させ、一人一人が高い意欲をもって訪問看護に取り組める環境を作ることで利用者の顧客満足度を向上させよう、そしてその結果として支援先の業績向上につなげようということになったのです。

そこで当社と戸沢教授は、ステーションの看護師の満足度向上に取り組み始めました。

看護師の満足度ってそもそも何?

しかし、いざ始めてみるとそれはなかなか難しい取り組みでした。

そもそも「看護師の満足度」とは、どんなものなのでしょうか?

それは「看護師が望む働き方がどれだけできているか?」という言葉に置き換えることができるでしょう。

つまり、「看護師の満足度」を高めるためには「看護師はどういった働きかたを望んでいるのか?」を考える必要があったのです。

そこで、私たちは看護師が望む働きかたがどんなものかを探るために、「看護師とはどのような人なのか?」ということから調べ始めました。

そこで分かったことは、看護師は「看護の質」に関心が高く、それがモチベーションの維持に深く関わっているということでした。そして、利用者を助けたり利用者のために時間をかけたりすることを望む半面、「生産性や効率を度外視」する一面もありました。

また、世の中から求められていることに喜びとやりがいを感じ、今後もできれば安定した環境で看護師として活躍したいと考えているようでした。

同時に、看護師はどんなことを「訪問看護ステーション」という仕事に求めているのかを調べると、「残業が少ない、勤務時間を選びやすい」といったライフサイクルに合わせて働ける環境や、「給与、安定性」といった条件面を重視していることが分かりました。中には訪問看護に強いやりがいを感じるあまり「訪問看護以外の業務を少なくしてほしい」といった要望が出るケースすらありました。

訪問看護のサービス品質向上

そしてこのような「看護師像」から導かれた看護師の満足度を向上させる方法が、「スケジュールエンジン」の開発・導入だったのです。

スケジューリングエンジンが変える「働きかた」、そしてスキルアップ

「スケジュールエンジン」を開発・導入することで、シフト設定の煩わしさから看護師さんを解放することができ、勤務時間に関する要望にもできる限り応えられるようになりました。つまり、「看護師が望む働きかた」に近づくことができたのです。

上述の通り、看護師さんは仕事熱心で高めの給与の実現にも前向きな一方、訪問看護以外の業務に追われて集中できなかったり、つい生産性や効率に無頓着になってしまったりする一面がありました。しかし、「スケジュールエンジン」を導入し、業務を徹底的に効率化することによって、これらの問題は解決できました。

そうすると、さまざまな副次的なメリットも出てきます。

まずそのステーションの働きやすさが、看護師の間で口コミによって広がり、「採用」活動が楽になりました。

また、前回お話しした「稼働率」も改善されて、安定したステーション活動が可能になることで、利用者の間でもステーションの良い評判が広がり、「営業」にかかるコストも大きく下げることができるようになったのです。

安易に現場にシフト設定を任せてしまうと、生産性や効率が下がってしまうなど現場の判断や価値観が事業の思わぬ足かせとなる可能性があります。しかし、現場の人に悪気はないのですから、ぜひ現場の方のためにも、「スケジューリングエンジン」のようなITを活用して、合理的な事業運営を図ってみてください。人間的な活動を実現するために、機械によるあくまでも合理的なシステムを利用することの威力を実感できると思います。

「スケジューリングエンジン」などのITを使い業務時間を細かく管理・分析すると、スタッフの得意不得意など職業能力の評価ができます。それに従ってスタッフそれぞれに適切な教育を施すことで、各自に最適なスキルアップが実現します。

こうしたIT活用によって大きく変化する現場のスキルアップについては、次回お話しします。それでは次回もお楽しみに。

プロフィール

株式会社インキュベクス 代表取締役 上村隆幸
[所属・役職]
株式会社インキュベクス 代表取締役
[略歴]
1965年神奈川県横浜市生まれ、産業技術大学院大学在籍。
この3年で500箇所以上の「訪問看護ステーション」の開業・運営業支援を手掛けており、こうしたビジネスの研究、開発、拡張を通じて、超高齢社会における幸福な将来ビジョンを描くことを目指している。

1998年、起業コンサルタント業を開始し、以来2500社を超える起業支援を手がける。日本の医療が在宅へと大きく変化することに従い、「子供からお年寄りまで」すべての生活者が安心と幸福を実感できる地域社会づくりの必要性から、「訪問看護ステーション開業運営支援」を開始。その支援先は民間企業から介護事業者まで全国500社以上に広がる。また「年金の範囲内でも安心して住まえ、良質な生活を実現する医療介護サービス提供と空間づくり」も全国で支援する。
著書に「営業マンよ出かけるな!」(出版文化社)、連載に「新極真空手に学ぶリーダーシップ」(『月刊人材ビジネス』オピニオン)、「地域を支え未来を切り拓くチェンジ戦略」(『経営活力ビジネスIT活用index』日本経済新聞社)、「経営ができる看護師になろう!」(『日経メディカルAナーシング』日経BP)など。
[URL]
インキュベクス株式会社

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